「萌乃は知らないの?犀川くんの状況とか」
「うん、知らない」
「2人って結局、付き合ってるんだっけ?付き合うことになってたけど、その割には一緒に帰ってるだけだよね」
はるちゃんに痛いところを突かれてしまった。
その通りだ。私たちはただ一緒に帰っていただけで、それもきっと、私が北区の人に狙われないように、守るため、なのだと思う。
犀川くんが一緒にいたいからとか、そんな甘い理由ではないことも流石に気づいている。
「……付き合っては、ない」
「あれ、そうなの?」
「多分……」
「まだその曖昧な関係なのね。
……まあ、犀川くんって何ていうか、別世界の人って感じだもんね。本当に王子様なんじゃないかってくらい格好いいし、生徒会長だし、頭もいいし、優しいし、それでいてミステリアスっていうか、掴めない感じも憧れるよねー。
まあ、毎日一緒に帰るくら仲良くなれただけでもめちゃくちゃすごいって!」
よくわからない励まし方をしてくれるはるちゃん。
まあ、確かにそうなのかもしれない。
元々、犀川くんとは話したこともなくて、私の存在すら認識していたか怪しくて、本当に別世界の人で。
廊下ですれ違ったり、遠くで見かけたりするたびに格好いいな、と憧れていただけで。
それなのにいつから、こんなに欲張りになってしまったんだろう。
本当の犀川くんを知りたいって、犀川くんの全部が欲しいって、いつからそんな身の程知らずのわがままを言うようになってしまったんだろう。
会えるだけで、一言喋れるだけで、よかったはずなのに。



