「は?」
「だって犀川くん、何も教えてくれないじゃん。犀川くんや尋くんがいつも何してるのかとか、北区と西区の関係とか、よくわかんないもん」
「いいんだよ、お前は何も知らなくて」
「何も教えてくれないくせに命令だけしないでよ!
……私には、本当の犀川くんを見せてくれないくせに」
犀川くんの腕を振り払って、走って家に帰る。
犀川くんは追いかけようとしたけれど、来ないで、と叫んだら諦めたように目を伏せた。
私が知っている犀川くんは、きっと本当の犀川くんじゃない。
本当の犀川くんは、夜、バイクで夜の闇に消えていく。
尋くんも、そうやって私の前からいなくなった。
いつも優しくて一緒に遊んでくれた尋くんは、もう私の隣にいない。
犀川くんだってきっと、いつか私の前からいなくなる。
大好きだった気持ちだけ残して、犀川くんは何でもないみたいに、きっと私を忘れる。尋くんと同じように。
犀川くんにとって私は特別じゃないから、だから犀川くんは、私に全部を見せてくれない。
自分の気持ちとの温度差に、涙が溢れてきた。
そういえば、とびブレザーのポケットに手を入れる。
取り出した紙ナプキンには、『何か知りたくなったらいつでも連絡してね』という言葉とともに、ジョーくんのものと思われる携帯番号が書いてあった。



