「あ、怖がらなくていいよ。俺は悪いやつじゃないから」
少し赤みの入った茶色い短髪。学ランの下に着ている赤いパーカー。赤いスマホ。
赤が好きなのかな、なんてどうでもいいことを考えた。
「返さなくていいから」
そう言って彼は、自分が差していたビニール傘を私にくれた。
「いや、それは悪いです!」
だって自分が濡れちゃうのに。そう思って返そうとすると、彼は八重歯を見せて笑った。
「じゃあ、明日もこの場所にいるから、気が向いたら会いにきてよ」
「明日……」
「じゃ、気をつけて帰ってね」
それだけ言って、彼は赤いパーカーのフードを被って、雨の中走っていった。
「名前も聞き忘れちゃった……」
文化祭の時に私を襲った人たちと同じ、北高校の制服。
この辺りでは西区と北区が対立しているって話を、なんとなく聞いたことがある。
私たちの通う西高校があるのが西区で、今の彼の北高校があるのが北区。
北区はかなり治安が悪いからあまり遊びに行ってはいけないと、親からも言われていたのを思い出す。
……圧倒的に、怪しい。でもなんだか今の彼は、悪い人ではないような、そんな感覚がした。



