文化祭が終わってから1週間が経った。


私と犀川くんの関係性は今までと変わらず曖昧で、文化祭が終わって生徒会の仕事が忙しくなくなったらしい犀川くんは、毎日私と一緒に帰ってくれた。



「犀川くん。今日ははるちゃんと居残りになっちゃったから、先に帰っててください……」

「え、居残り?」

「うん……。数学の宿題、2人とも忘れちゃって」



周りに人がいるからニコニコしているけれど、その瞳の奥には「バカなの?」と書いてある。



「終わるまで待ってるよ」

「いや、はるちゃんと帰るから大丈夫だよ!」



はるちゃんとは家が割と遠いので、駅のあたりまでだけど、と心の中で付け加える。

途中から1人だなんて言ったら、犀川くんはきっと私を待ってくれてしまう。


文化祭終わりで疲れているはずなのだから、たまには早く帰って1人で寝てほしいという気持ちもあった。




「……じゃあ、学校出る時と、家に着いた時に連絡してね」



犀川くんはとても過保護な条件付きで、先に1人で帰って行った。私はほっとして、はるちゃんと2人で放課後の教室で、数学の課題を進める。




「ミスターコンの表彰式で、犀川くんと逃避行したって噂じゃん」

「逃避行って……」



よく意味のわかっていない数式をノートに書きながら、はるちゃんと喋る。

犀川くんがミスターコンの途中で抜け出してきたのはかなり噂になっているらしい。





「2人きりで何してたのー?」





ニヤニヤするはるちゃん。

犀川くんは不良に襲われかけていた私を助けてくれただけなのだけれど、それを話すためにはまず、犀川くんが不良だという前提から説明しなくてはいけない。

そしてそれは口止めされている。