「戻らなくてもいいの?」


「もういいだろ。眠いから休ませて」




と、犀川くんが私に寄りかかって、金髪の頭がふわりと私の肩に乗る。


驚いて隣を見ると、犀川くんは目を閉じていた。


文化祭の準備がすごく大変そうだったから、疲れているのかもしれない。


長いまつ毛が、頬に影を落とす。心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと、緊張した。


ステージでは、浅木さんが楽しそうに笑っている。






「……萌乃の方が、可愛いよ」








小さな声で犀川くんが何か言ったのと、ステージがどっと盛り上がったのが同時だった。




「え、なに?ちょうど聞こえなかった」

「何も言ってない」

「え、何か言ったよね?……ねえ、犀川くん?」

「うるさい。ちょっと寝かせろ」

「ええ……」




隣で眠る彼は、悪い男じゃなくて、天使みたいな寝顔をしていた。