そっと近づいて、犀川くんの制服の袖をそっと掴む。
犀川くんはその私の手を取って、指を絡めた。
「とりあえず、どこか行こう」
犀川くんに連れてこられたのは、校舎の3階の奥にある社会科資料室だった。
普段からあまり使うことがなく、文化祭の今日は特に人気のない場所。たまたま鍵が開いていたので中に入ると、窓からちょうど校庭のステージがよく見えた。
「……ありがとう、助けてくれて」
「いや。ごめん、俺のせいで怖い思いさせて」
もしかしたら犀川くんは、私がこうならないように、毎日家まで一緒に帰ってくれていたのかな、と思った。
「犀川くん、って」
犀川くんが、私の顔を見る。
「……浅木さんと、付き合ってるの?」
そう聞いたら、犀川くんは不機嫌そうに眉を顰めた。
「は?付き合ってると思ってんの?」
犀川くんの怒った顔は、怖い。思わず目を逸らす。
「だって、最近ずっと浅木さんと一緒にいた」
「文化祭準備のためにな」
「……ミスとミスターで、お似合いだし」
「勝手に誰かが投票しただけだろ」
「浅木さんの、お弁当食べてた」
「作ってきたって渡されただけ。萌乃のハンバーグの方が美味しかった」
「……」
「あとは何?」
繋いだままの手を、もう一度強く握りながら、犀川くんが私の顔を覗き込む。



