「……ありがとう」
「どうだった?初めてのバイク」
「最初は怖かったけど楽しかった!速くて!」
「それはよかった」
砂浜に降りて、2人で海辺を歩く。
ああ、私、今犀川くんと海でデートしてるんだ。
少し前の自分では考られなかった事実に、夢なんじゃないかと思ってしまう。たとえ不良だったとしても、犀川くんのこと……。
「ちょっとお手洗い行ってくるね」
「ん、ここで待ってる」
トイレは少し離れた所にあった。
自販機やベンチや木なんかの影に隠れて、トイレのある場所からは犀川くんの姿は見えない。
ずっと緊張していたから、1人になって少し落ち着いて、息を吐く。そしてトイレから、犀川くんのところに戻る途中。
「お姉さん、ちょっといい?」
「え……」
突然2人組の男に声を掛けられて、驚いて振り返る。何だか怪しい雰囲気に、思わず後ずさる。
「さっき一緒にいたのって、犀川深雪だよな?」
「君が犀川の女?」
ニヤニヤしながら近づいてくる2人。
犀川くんの名前を、知っている。
ふと、西区と北区が敵対しているという、はるちゃんの話を思い出す。
この人たちは、犀川くんと敵対している北区の人なのかも知れない。そう気づいてしまった瞬間、怖くなって足が震える。



