「……じゃあ、私は先に帰るね」
「え、一緒に帰らないの?」
「え……」
「急いでる?」
「いや、急いではないけど」
「じゃあちょっと待ってて。これだけやりたくて、終わったら一緒に帰ろ」
そう言うと、机に置いてあったノートパソコンを開いて、何か作業を始めた犀川くん。
何か手伝おうかと聞いたら、「萌乃ちゃんは座ってお菓子でも食べてて」と苺チョコレートの袋を渡された。
子供だと思っているのか?と思ったけれど、新発売のチョコだったので、遠慮なくいただいた。
作業がひと段落ついたのか、一度伸びをした犀川くんが、くるりと振り返る。ずっと背中しか見えなくてちょっと寂しかったのは内緒だ。
「楽しみだね、明日」
そうだ、明日!
「待ってよ、行くって言ってない」
抗議したけれど、犀川くんは楽しそうに笑うだけで、全然私の話を聞いてくれない。



