「……当たり前、です」
「俺は好きなのに?」
「っ、」
ああ、ずるいな、本当に。寂しそうな声出さないでよ。
犀川くんが私のこと、好きなわけないのに。わかっているのに、わかっているのに、単純な私の心はときめいてしまう。
「なんで、私なの……?」
「え、好きだから」
「……犀川くんが、私を好きになる理由がわからないもん」
そう言って犀川くんを見上げたとき、一瞬目を逸らしたのを見逃さなかった。
もしかしたら、何か事情があって私に近づいたのかも知れない。それか、ただの気まぐれで、私をからかって楽しんでるのかもしれない。
いろんなことをぐるぐる考えたけれど、犀川くんの真意はわからなかった。
「わかった。じゃあ萌乃ちゃん、デートしよ」
何がわかったのだろうか。
「明日の土曜日暇?」
まだ返事してないけど。
「家まで迎えに行くね。11時」
ちょっと、時間まで決めないでよ。
私の脳内のツッコミは彼には届かず、とんとん拍子で話が進んでいく。私が驚いて反論できないでいる間に、明日の11時に彼は私の家まで迎えにくることになってしまった。



