「え、これって犀川くんの声?」
「どうしたの水沢さん、呼び出されて。何かしたの?」
校内放送を聞いていたみんなから注目されて、無視して帰るなんてさすがにできなかった。
きっと犀川くんはそれも見越している。ずるい。
普通の教室と同じなのに、「生徒会室」と書かれたプレートのせいでなぜだか仰々しく感じるドア。
目の前に立って、ふう、と息を吐いて、ゆっくりドアを開く。
そっと開けたのにガラガラ、と大きな音がして、恐る恐る中を覗くと、にっこり笑う犀川くんが立っていた。
他に人はいなくて、机の上には何かの資料みたいなものが広がっていて、学校ではあまり見る機会のないノートパソコンがここにはあった。
「急に呼び出してごめんね」
今の私はもう、これが外面の笑顔だって知ってる。
本当の犀川くんは、王子様じゃないって知ってる。
「……何ですか」
「一緒に帰ろうと思って」
「何でですか」
「だって彼氏だし」
白々しく、笑っている。その笑顔すら息を飲むほど綺麗で、ずるい。
「もう彼氏じゃないです!」
「……もう付き合ってくれないの?」
眉を下げて、悲しそうな顔をして。
それが演技だってこともわかっているけれど、それでも胸が痛んでしまうくらい顔がいい。



