犀川くんは王子様じゃなかった。
犀川くんは私のことが好きなわけじゃなかった。
犀川くんは私の嫌いな不良だった。
私が好きになった犀川くんは、本物の犀川くんじゃなかった。
「っ……」
ぽろ、と頬を温かい雫が伝う。
好きじゃない。
王子様じゃない犀川くんなんて、全然好きじゃない。
あんな人と関わったって何もいいことない。
どうせ尋くんと同じように、ふっと私の前からいなくなるんでしょ。
そう思ってるのに、それなのに。
夜の暗闇の中、ゴツいアクセサリーに黒い服。
王子様のハチミツ色の髪が、月明かりに照らされて怪しく光るその姿に、どうしようもなく惹かれてしまう私がいた。
綺麗に制服を着た王子様な彼よりも、今日の彼の姿が頭から離れない。
あの日食べた甘い甘いクリームパイは、どうやら甘いだけじゃなかったらしい。



