「……おやすみ、尋くん」
私が呼んだ名前に、尋くんが少し驚いた顔をしたのが、街灯のぼんやりとした光で見えた。
「おやすみ、萌乃」
尋くんの背中を見送る前に、家の中に入ってドアを閉めた。
「っ……」
一気にいろんなことが起こりすぎて、自分の気持ちすらよくわからない。
久しぶりに会った尋くんはあの頃と全然違って、近寄りがたくて。
だけどあの頃と同じように優しくて、触れたら壊れてしまいそうな気がした。
どうして突然、私の前からいなくなったんだろう。
どうして、何も言ってくれなかったんだろう。
どうして──……。
考えてもわからない。そして、わからないのはもうひとつ。
「犀川、くん」
小さな声でその名前を呼んだら、また目の奥が熱くなった。



