真夜中に恋の舞う






「うん、ごめんね」





尋くんから返ってきたのは、答えになってない答えだった。



やっと振り返った尋くんは、困ったように眉を下げて笑った。メガネの奥の瞳は、なんだか悲しそうな気がした。





尋くんは私の家の近所に住んでいた、3歳年上の幼なじみだった。


幼なじみというか、近所のお兄ちゃんというか、とにかくよく遊んでくれて、優しくしてくれて、兄弟のいない私からしたら本当にお兄ちゃんみたいだと思っていた。




私が小学生の時にクラスの男の子に意地悪されていたらいつも尋くんが助けてくれたし、勉強も教えてくれた。


お母さんに内緒でお菓子を買ってくれたし、遊びにも連れて行ってくれた。




尋くんが高校生になってからは、尋くんは怖い人たちと一緒にいるようになって、ぱったりと会わなくなって、たまたますれ違っても目を合わせなくなった。


そのうち実家も出てしまったらしく、尋くんは完全に別世界の人。


優しかった尋くんを奪った、不良が嫌いになったのはそのせいだ。


懐かしい尋くんの声に、じわりと心が痛くなる。






「じゃあ、気をつけて」




私の家の前まで迷わずにたどり着いた尋くん。


気を付けても何も、家の前まで来て何を気をつけるって言うんだ。それを言うなら、気をつけて欲しいのは尋くんでしょ。



そんなことを思いながら、口には出さずに下を向く。