「久しぶりだね、萌乃」
「うん、」
「元気だった?」
「うん、」
少し前を歩く彼は、私の方を振り返らないまま、声をかけてくる。私も、彼の背中を見つめたまま答える。
「……不良、嫌いなの?」
「嫌い、大嫌い」
じわりと目の奥が熱くなって、涙が溜まる。
不良が嫌いなのは、尋くんのせいだった。
彼がいなかったら、私は不良に対して、特に何の感情も抱いていなかったと思う。
「……尋くんは、なんで急にいなくなっちゃったの」
少し前を歩く、黒いシャツの背中につぶやく。
薄手の黒いシャツの袖を少しめくって、七分袖くらいになったそこから、骨ばった腕が見えている。
尋くんってこんなに、背中ががっしりしてたっけ。
こんなに背が高かったっけ。
こんなに、甘い匂いだったっけ。



