憧れだった彼が、楽しかったこの1週間が、一緒に食べたクリームパイの甘さが、音を立てて壊れていく。
自分でも気付かないうちに溢れていた涙が、ぽろっと頬を伝った。
それを見て、初めて少しだけ、犀川くんの瞳が揺れた気がした。
目の奥が熱い。視界が涙でぐらりと歪む。自分の鼓動が、脳内に響いてうるさい。
「……ぜんぶ、嘘だったんだ」
犀川くんは灰皿にタバコの吸い殻を捨てて、私に近付いてくる。
馴染みのない、甘ったるいタバコの匂いが鼻を掠めた。
周りの人たちは興味深そうに私たちを見ている。大人っぽい彼らはきっと同じ高校生ではないのだろうと、やけに冷静に考えた。
よく見ると、その中にははるちゃんが格好いいと騒いでいた、妹尾尋の姿もあった。



