「家、ここなんだ。学校からちょっとだけ歩くね」
「うん、そうなの。遅刻しそうな時は走ると大変。犀川くんの家はどのあたりなの…?」
「わりと近くだよ」
今まで、通学路で犀川くんのことを見たことがない。本当にこの辺りに住んでいるのか、また私に気を遣わせないための優しさなのか、よくわからなかった。
「今日はありがとう。じゃあ、おやすみ」
「お、おやすみ……!送ってくれてありがとう!」
ちょうど日も暮れて、暗くなった住宅街。
王子が歩くには不相応だと思ってしまうような、月明かりと街灯が照らす狭い道を、彼は歩いていく。
その後ろ姿をずっと見つめていると、ふと振り返った犀川くんが、呆れたように笑う。
「早く入りな、家」
「は、はい!」
見とれていたのがバレてしまった。
恥ずかしくて慌てて家に入って、熱い頬を両手で押さえる。
昨日まで、犀川くんに「おやすみ」って言われる日が来るなんて、夢にも思っていなかった。
今日はあまりにも色んなことがありすぎた。
憧れてた王子様と付き合えることになって、初めてのデートをして、家まで送ってもらって、それで。
破裂しそうな心臓と、もう情報が処理できなくなった脳内。ベッドに入っても全然眠れなくて、犀川くんのことばかり考えていた。



