「あ、犀川くん、お箸持ちにくいよね。フォークとか持ってこようか」
犀川くんが怪我をしているのは利き腕である右手。まだギプスの付いている右腕を見て、慌ててフォークを取りに行こうとしたところを、止められた。
「萌乃が食べさせてよ」
意地悪な顔で、私を見る犀川くん。
その表情にすらときめいてしまうのだから、もう末期だ。
「しょうがないなぁ」
なんて言って、一口サイズに切ったハンバーグを犀川くんの口に運ぶ。犀川くんの綺麗な顔が近くにあって、思わず見惚れてしまう。
「ん、美味しい」
「よかった」
ご飯を食べて、クリスマスに家に泥棒が入ってきて大騒ぎする映画が動画配信サイトにあったので、ケーキを食べながら映画を見た。
沈黙すると緊張で息ができなくなってしまいそうだったから、映画で気を紛らわせるのはありがたい。でも。
私は集中して映画を見ようとしているのに、犀川くんは集中している私の耳にふっと息を吹きかけてみたり、私の手を握ってみたり、いたずらばかりしてくる。
私の体温もだんだん上がって、映画どころではなくなってしまった。



