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犀川くんの退院が決まったのは、クリスマスイブのことだった。
私も何度かお見舞いに通った病院を出ると、目の前に尋くんの車が停まっていた。
尋くんは「お帰り、深雪」と声をかけて、犀川くんの荷物を車に積んだ。
尋くんは私たちを犀川くんの家まで送ってくれた。
「尋くんも一緒にクリスマスする?」
送ってもらうだけなのは申し訳なくてそう聞いてみたけれど、尋くんは困ったように笑って、
「深雪に殺されるからやめとく」
と言って帰って行った。
初めて来る犀川くんの家は、私の家とは反対方向だった。毎日送ってくれていたのはかなり大変だったのではないかと、今更ながらに気付く。
マンションの一室で、部屋の中に入ると生活感のない、シンプルな部屋だった。綺麗だけど、余計な物がなくて、何だか落ち着かない。きっと部屋を飾ったりするのには興味がないんだろうなと思う。
「クリスマスなのに、チキンとか買ってこなくてよかったの?」
犀川くんをソファに座らせてキッチンに立ち、前に一度だけ犀川くんに振る舞ったことのあるハンバーグをつくりながら、聞いてみる。
本当はクリスマスだからケーキとチキンとご馳走を用意してパーティーしようかと提案したのだけれど、「萌乃のハンバーグが食べたい」と言われてしまったのだ。
ケーキは買ってきたけれど、あまりにも普通のご飯で申し訳ない気がしてしまう。



