「大人になったな、萌乃」
尋くんは私を見つめて、そう言った。
眼鏡の奥の尋くんの瞳に、私が映っている。
「ありがとう、尋くん」
車を降りて、エントランスに入る。
尋くんの手のひらの温度が、大きさが、私の頭に残っている。
振り返ると、もう尋くんの車はそこにはなかった。
何もない道路を見つめていると、何だか悲しいような、温かいような気持ちになった。
あの頃の尋くんはもういないし、あの頃の私ももういない。
でも、尋くんが私を守ってくれていた事実は、いつまで経っても変わらない。
私がもう、尋くんに守られる必要がなくなったとしても、私が今ここにいるのは尋くんのおかげで、尋くんが今の私を作ってくれた。
尋くんはこれからも、私の大切な人だ。
たとえいつか私たちが別の道に進んで、もう会わなくなったとしても、それだけは変わらないだろう。



