──いいんだよ。俺は、大切な人が幸せなら、幸せにするのが自分じゃなくてもいいって思ってるから。
いつだか尋くんが言っていた言葉を思い出す。
あの言葉の意味が、ようやく分かった気がした。
切なくて、温かくて、泣きそうになる。
「尋くんも、いつか幸せになってね」
私がそう言うと、尋くんは少し驚いたように目を見張る。
「どうしたの、急に」
「尋くんにも、どこかで誰かと、とびっきり幸せになって欲しいって思ったの」
それは私じゃなかったけれど。
それでも、尋くんのことを世界でいちばん大切にしてくれる人が、彼の隣にいてくれたらいいと思う。
「萌乃にそう思ってもらえるだけで、結構幸せだけどね」
尋くんがそうつぶやいたタイミングで、車は病院の前に到着して、ゆっくりブレーキがかかった。
「ほら、行っておいで」
病院のエントランスが目の前にある。
「尋くんは行かないの?」
「久しぶりの再会だろ。しばらく2人にしてあげる」
いたずらっぽく笑って、尋くんは私の頭をぽんと撫でた。



