「ふーん、盗み聞き?いい趣味してるね」
「いや、あの、これは、」
「俺の話も聞いていたわけ?」
「ええと……」
おろおろしながら、犀川くんから必死で目を逸らす。
犀川くんはじりじりと近づいてきて、私の逃げ場を奪う。
「言ったでしょ、焦ってる顔されると意地悪したくなるって」
犀川くんはにやりと口角を上げて、それから「ほら、帰るよ」と階段を降りていった。私も慌ててついていく。
「でも犀川くん、私のこと、結構好きなんですね……」
3段下の階段を先に降りている犀川くんの背中に問いかけると、彼が振り返る。
「何、からかってる?」
「そ、そうじゃなくて!嬉しくて……」
「あ、そう」
犀川くんはまた、私に背を向けて階段を降りていく。
その背中に抱きつきたくて、犀川くんの体温をいっぱいに感じたくて、でも学校だからと我慢しながら、にやける頬を隠しきれないまま階段を降りた。



