「ええと、近所のお兄ちゃんで、昔よく遊んでくれてて。勉強も教えてくれたし、私が男の子にいじめられてたら助けてくれたし、泣いてたらお菓子買ってくれて、本当に大好きなお兄ちゃんだったんだ。

私1人っ子だから、尋くんのこと本当のお兄ちゃんみたいに思ってて。でも、尋くんはだんだん遊んでくれなくなって、顔も合わせなくなった。


今思えば、私を危険なことに巻き込まないために距離を置いてたんだと思うけど、当時の私はそんなこと気付かなくて、尋くんのことも、私から尋くんを奪った不良のことも大嫌いって思ってたんだ」






話しながら、尋くんのことを思い出す。

テストの点数が低くて、親に見せるのが嫌で家に帰れなくて、尋くんに泣きついたらアイスを買って勉強を教えてくれたこと。


クラスの男子にからかわれて泣いていた時に、男子たちを怒ってくれたこと。

嬉しいことがあった時、1番最初に尋くんに報告に行ったこと。


私の記憶の中の尋くんはいつも優しく笑っていて、いつも私の味方でいてくれたっけ。








「……好きだったの?」






と、隣から犀川くんの拗ねた声。

不満そうな顔で私を見るから、思わず笑ってしまった。






「尋くんは私の初恋だけど、今は犀川くんが大好きだよ」



「っ……知ってるけど」




犀川くんは焦ったように目を逸らすけど、頬が赤いのは夕日のせいだけじゃないはずだ。







「犀川くん、ヤキモチ妬いてる?」


「うるせーよ」


「ねえねえ」