「好き、って……」




犀川くんの言葉の意味がわからなくて、反芻する。






「……萌乃のこと本当に好きになって、好きになるにつれて、苦しかった。


萌乃が北区に狙われてると思うと不安で、尋さんの大切な子だって思うだけで嫉妬して、俺たちのせいで萌乃を危険な目に遭わせてるんだって思ったら、自分のことも許せなかった。」







犀川くんの声が、震えている。

私はずっと堪えていた涙が溢れて、ぽろぽろと頬を伝う。






「最近北区との対立が激しくなってて、1ヶ月忙しくて学校も来れてなくて、その間も萌乃が危険な目に遭ってないか心配で、自分で守れないのが悔しくて、尋さんに取られたらと思うと苛ついて、」





「……ねえ、それって」









──萌乃が好きだよ。









犀川くんは私の耳元で、そう囁いた。


そのまま私の肩を抱き寄せて、私はすっぽりと、いつの間にか向かい合っていた犀川くんの腕の中に収まる。


大きくて骨ばった腕が、犀川くんの匂いが、温かさが、私を包み込む。私もその広い背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめ返した。