「……近付いた理由は、そうだった。
尋さんが西区に帰ってきて、でもスパイだったことが北区にバレて、北区が狙ってる尋さんの弱点が、同じ高校にいるって聞いた時は驚いた。
水沢萌乃が北区に捕まったら、尋さんはきっと助けに行く。そうなったら西区が危ない。だから俺が水沢萌乃を守るようにって命じられて、どうやって近付こうか考えてた時に、俺に憧れてるってことがわかって、チャンスだと思った」
長い沈黙の後、犀川くんが口を開いた。
わかっていたけれど、いざ本人の口からそう聞いてしまうと、心がナイフで裂かれたみたいに痛い。
あの日、私たちが出会った日のことを思い出す。
──へえ。水沢さんって、俺のこと好きなんだ。
あの時、犀川くんはそんなことを考えていたんだね。
「でも」
犀川くんは、続ける。それから、私の震えていた右手に、自分の左手を重ねた。
大きな犀川くんの手が、私の手を包み込む。
その手が温かくて、また涙で視界が歪む。
「……こんなに本気で好きになるつもりじゃなかった」
犀川くんの手に、力がこもる。
驚いて顔を上げて隣を見ると、犀川くんは泣きそうな顔をしていた。



