でも、犀川くんがあまりにも優しいから。



たまに見せてくれる意地悪な顔が、どうしたって素の犀川くんに見えてしまうから。



私にだけ特別な姿を見せてくれてるんじゃないかって、本当に私のことが好きなんじゃないかって、勘違いしてしまっていた。




そんなわけなかったのに。



犀川くんは、組織のために私に近付いた。




私を守るためとか、甘い理由じゃない。


私を守るというのは手段で、目的じゃない。



本当の目的は、組織を守るためだ。




尋くんの弱点である私を守ることで、犀川くんが守りたかったものは、私じゃなくて組織だった。


私への気持ちなんて、最初から1ミリもなかったのだろう。



わかっていたけれど、その事実を改めて口にすると、じわりと目の奥から涙が溢れてくる。






……ああ、だって、ずるいよ。


私はこんなにも好きになっちゃったのに。




犀川くんに憧れていただけの頃だったら、まだよかった。ひと目見れたら今日はラッキーだなって浮かれたり、挨拶できたら死んでもいいくらい嬉しくて。



そんな憧れの犀川くんのこと、今は独り占めしたいだなんて思ってしまっている。





王子様みたいな外面の優しい笑顔も、意地悪する時に片口角を上げた表情も、怒った時の怖い顔も、喧嘩する時の裏の顔も、全部。


全部好きになっちゃったから、全部欲しくなっちゃったから、こんなに苦しくて、息ができない。