「しばらくお休み頂いていてすみません。
家庭の事情で……親の看病をしていました」
そこから顔を見せたのは、ハチミツ色の柔らかい髪。
怖いくらいに整った、綺麗な微笑みを浮かべる顔。
着崩さず、きっちりと着た制服。
彼はゆっくりと教室の真ん中まで歩いてきて、私の背中をぽんと優しく叩いた。
久しぶりに見た犀川くんはまるで王子様みたいで、それでもどこか疲れた表情をしていた。
犀川くんはそれだけ言って、自分のクラスに戻って行く。
私の声が聞こえて、わざわざ私のクラスに来てくれたのだと気づいて、泣きそうになった。
家庭の事情で、という言葉に、クラスメイトたちが顔を見合わせる。
「なんだ、人殺したとかって嘘だったんじゃん」
「そうだよね、犀川くんがそんなことするはずないよね」
「ちょっと、さっき何か言ってた男子、謝りなよー」
「そうだよ、犀川くんがそんな怖いことするわけないじゃん」
口々に犀川くんを庇い始める女子たちに、さっきまで犀川くんを悪く言っていた男子たちが、決まり悪そうに目を逸らす。
犀川くんに両親がいないことを知っているのは、私だけだった。



