「8時かぁ。その時間は歯磨きしてるよ。月香ちゃんは?」
「私は電車に乗ってる……」
左隣で月香ちゃんがポソッと呟いた。
「電車通学なんだ。何時起きなの?」
「ろ、6時台に起きてます」
タメ語の樫尾くんに、敬語でぎこちなく返答した月香ちゃん。
私よりも背は高いはずなんだけど……なんだか一回り小さく見える。
急に誘われたんもんね。緊張するのも無理はない。
「早いね。まだその時間、みんな寝てるよ」
「いいなぁ。何人部屋に住んでるんですか?」
「4人部屋。両端に二段ベッドがあって……」
頑張って話を広げる月香ちゃんを見守る。
今の月香ちゃん、前に準備室で先輩に会った時の私みたい。
あの時の樫尾くんもこんな気持ちだったのかな。
「世蘭ちゃん、樫尾くん、私、トイレ行ってくるね」
「わかった。先に戻ってるね」
渡り廊下で月香ちゃんと別れて、樫尾くんと2人で校舎の中へ。
大きい学校だから、あちこちにトイレがあるんだよね。全部で何個あるんだろう。便器だけでも100個超えてたりして。
呑気なことを考えながら、階段に足をかけたその時。
「────正直に答えろ。何の手を使った」



