「初めて会ったのは、俺が小2の頃。雨の日の夕方だった。全部話すと長くなるから割愛するけど……俺んち、ちょっと家族仲が悪くてさ」



語り始めた彼の声に耳を傾ける。


ザーザー降りだった雨の日。

家族のケンカがヒートアップして、怖くなって家を飛び出した樫尾くん。


身も心もボロボロになって、住宅街を彷徨っていたところを、偶然零士先輩が見つけたらしい。

すぐ近くに先輩のお父さんもいたため、大事には至らなかったとのこと。


なんてドラマティックな出会いなんだ……。



「転校していった後も、何かと気にかけてくれてさ。数ヶ月に1回、安否確認しにきたよって会いに来てくれて。それで、今に至る感じかな」

「そうだったんだ……」



安否確認ということは、それだけ荒れた環境だったのかな。


あ……だから、親元を離れて寮生活しているの?
だとしたらバイトも、それと関係してる?


聞きたいことはたくさんあるけれど、これ以上踏み込むと古傷をえぐるかもしれない。

まとめると、樫尾くんにとって一ノ瀬親子は、命の恩人のようだ。