話している2人の間に入ろうとしたその時。
「あのー、まだかかりますか?」
「あ! 一ノ瀬くん!」
後ろで声がして振り向くと、零士先輩が腕を組んで立っていた。
しまった。10分だけって言ってたのに。もう過ぎちゃってた⁉
「なんだ、郁海もいたの?」
「はい。バイトに行こうとしてたら先輩に捕まっちゃいまして」
「やだちょっと! そんな物騒な言い方しないでよ! 一ノ瀬くんも! その顔やめて!」
慌てる朝日先輩を、零士先輩はジト目で見つめている。
早く郁海を解放しろ。バイトに遅れたらどうするんだ。って眼差しだ。
「ほら、早く行きな」
「はいっ。では、お先に失礼します」
樫尾くんが会釈して小走りで去っていき、先輩達と私の3人だけに。
「10分だけって約束したのに、なんで20分もかかってるの?」
「あらら、そんなにかかってた⁉ ごめーん! 久々だったからつい話し込んじゃった」
「もう……」
手を合わせている朝日先輩。
しかし、零士先輩の口は尖ったまま。見るからにご機嫌斜め。
寛大な先輩にしては、この姿は珍しい。



