「は、はい……私で良ければ」
なんでいきなり握手? 私、戦わないのに。
樫尾くんが出るのを知っていて、お互い頑張ろうみたいな意味なのかな。
頭上にハテナマークを浮かべ、両手を差し出すと──少し熱を帯びた手が、両手の甲をそっと包み込んだ。
「よし、午後の分の充電完了」
「っ……」
そのままギュッと握られて、先程よりも心臓が大きな音を立てた。
いつもと雰囲気が違うからかな。
柔らかな微笑みが、優しい眼差しが、ほんの少し、甘く感じる。
それはまるで、愛しい人に向けるような顔で……。
「郁海を……自分のクラスを応援するんだろうけど、俺のことも応援してくれないかな」
「は、はいっ! もちろんです! 素晴らしい泳ぎを楽しみにしてます!」
「ありがとう。じゃ、また」
パッと手が離れ、小走りで去っていった一ノ瀬先輩の背中を眺める。
まだ……熱い。
この前は服越しだったけど、今回は直に。数秒間。
そしてさらに、甘い表情付き。
こんな炎天下の中、またドキドキさせるなんて。
「今度こそのぼせちゃうよ……」



