「…真冬くん、今日は早めに寝るわ」
「かしこまりました」
オレンジを一切れも口にすることなく、柊 アリサはダイニングテーブルの椅子から立ち上がった。
マンションではいつも向かい合って一緒に食べていた食事、他愛ない話で盛り上がってはたまに困らせられて。
そんな楽しかった日々を今は早乙女 燐と送っているのかと思うと、心がざわついて仕方ない。
「…どうかされたのですか」
テーブルを片付ける俺の動きは再びピタリと止まった。
背中に感じる女の匂いと仄かな熱。
身を寄せるように抱きついてきているのだと、けれどそれは俺が求めているものでは無くて。
「どうして執事になってしまったの?私の許嫁はそんなに嫌だったかしら」
「…俺の家は代々執事の家系でしたから」
違う、そんなことじゃない。
言ってもいいならば、今アリサ様が言った理由が当てはまる。
この人と結婚をしたくなかったから。
そして四つ葉のクローバーをくれた、無邪気で笑顔が可愛い女の子の隣に立派な男となって立ちたかったからだ。
「真冬くん、…一緒に寝て欲しいの」



