「あ、あの……前は、ごめ───」


「ごめん」


「えっ、」



わたしが言いたかった言葉を被せて言ってきた。

思わずふっと顔を上げてみれば、少しだけ泣きそうな顔をしていて。



「…前、ここで最低なことしたから俺。悪かった」


「わ、わたしも…叩いちゃって、いっぱいひどいこと言って…ごめん」


「いーよ全然。…柊家にはそーいうのも言ってないから安心して」



うん、それは知ってる。
お父さんは何も言ってなかったから。

それになんか、怖くなくなってる…。

前はこの男が怖くて怖くて仕方なかったのに、今はそうでもない。



「それにしてもさ、俺の名前を一郎だとずっと思ってたのかよ」


「え、だれそれ…」


「おい。お前が俺に言った名前だろ」



そんなことわたし言いましたっけ…。

早乙女 いちろう…?


………あ、確かフルネームで知ってる?なんて聞かれて適当に答えたような気がする。



「ふふっ、あははっ、あったね。でもあれは適当だよ?」


「っ…!!」



そんなわたしに、バッ!!と豪快に顔を背けた早乙女。

え…、そんなあからさまに背けられると傷つくのに。