「あ、あまり無理しないで大丈夫だよ樋口!いろいろ疲れてるだろうから…」
「…はい、申し訳ありませんお嬢様」
そしてわたしはわたしで周りとは少しだけ違った。
周りはお嬢様の家に代々仕える家系の執事が配属されるパターンがほとんど。
けれどわたしは庶民的な生活を今までしてきた。
確かに家は柊財閥だとしても、公立高校に通わせられるところだったのだから。
だから専属の執事だって柊家と関わりのある者じゃなく、こうして物好きが集まってきては去ってゆく。
「エマお嬢様、手縫いだなんてすごいですね」
「えっ、ミシン壊しちゃったから…」
「あのミシンはだいぶ使い古しておりましたので、あなたが壊したわけではありません。
それに、いざというときは手縫いが何よりなんですよ」
その人は目線を合わせて笑いかけて、優しく優しく見つめてくれる。
「すごく上手ですね」
「ううん、曲がっててガタガタだよ!
ほらっ」
「いえ、お嬢様らしさが出ていて素敵です」
この人がわたしの執事だったら良かったなぁって。
そんなこと、地球がひっくり返ってもありえないのにね───。



