「ではお背中を失礼いたします」


「し、失礼されます…」



今日のわたしは緊張していた。

大きな三面鏡の前、わたしのうしろに立った執事は、丁寧に背中のファスナーへ手をかけて優しく引き上げた。



「っ…、」



ピクッと思わず反応してしまうのは、もう仕方のないこと。


くすぐったいとか、恥ずかしいとか。

いつもと慣れない格好がなんとか気持ちを抑えてくれた。



「髪…、結べそう?」


「…はい。ですがあまりさせたくはありません」


「え、どうして…?似合わない…?」


「違います。…うなじが見えてしまいますから」



おっと……。

そんなことを言われて「ふふっ」なんて優雅に笑える余裕は持ち合わせておりませんので。


うなじ、うなじ……。

今わたしの背中に立つ男はそんなものを見つめているのかと。



「じゃ、じゃあ結ばなくていいよっ。でも、いつもと少し違くして…欲しい」


「…かしこまりました」



舞踏会当日、開演は17時から。


用意された衣装は、白ベースに淡いブルーが混ぜられた落ち着かないドレス。

それは執事がお嬢様のために用意した1着だという。



「じっとしていてくださいね」


「う、うん」