湊は二人分のラケットを持ってきたのか、汐桜がその片方を受け取ろうとしていた。






俺は二人の間に割って入り、その手を握る。






「汐桜」


「っかかか奏多くん、手!災いが!わわわ…」


「…なんて?」






汐桜のあまりの驚きようと、今にも泣き出してしまいそうな顔を見て自分から手を離してしまった。






奏多くん、なんて呼ばれたのはいつぶりだろう。






汐桜は焦ると君付けする時がある……少し気に入ってたりするんだけど。






もちろん今日は例外。







「ごめんなさい!
桃子(ももこ)、私やっぱりバレーボールに行きたいかも。ピンポン玉より大っきいボールが好きなんだよね
湊もごめんね、では!」


「ええ…汐桜さっき真逆のこと言ってたよ?
…ごめんね奏多くん、許してあげてね」







パタパタ…と汐桜たちの足音が遠ざかっていく。






卓球を選んだその場にいる全員に謎の沈黙の時間が流れた。







逃げられた。