わけあってイケメン好きをやめました

「さっき言った“蹴り”よ。こんなことなら飛び蹴りの練習でもしておけば良かった!」


 どこでそんな練習するんですか、などとツッコミを入れる余裕もなく、美和さんが立ち上がったので私は彼女の両肩を押さえて座らせた。


「落ち着いてください。蹴りはまずいですよ!」

「私、絢音ちゃんがかわいくて仕方ないの。勝手に妹みたいに思ってる。それなのに、もし軽々しく手を出したんだとしたら許せない!!」


 ガラス越しなので私たちからはっきりと姿は見えないものの、社長室にいる虹磨さんのほうを伺いつつ、美和さんが怒り心頭で言葉を発した。

 あれは……軽々しく、だったのだろうか。どういうつもりだったのか、それが私にもわからない。


「美和さん、私は大丈夫です。昨日はビックリしたけど、ドキドキして夢見心地で……胸が締め付けられて……」


 私がたどたどしく紡ぐ言葉を聞き、美和さんは肩透かしを食らったように溜め息を吐きだした。


「もう! そんな顔されたらこれ以上なにも言えなくなるよ!」

「え、どんな顔ですか?」

「幸せでした、って物語ってる」