「キスしたのが堤にバレたら、またブツブツと文句を言われるな。手を出すのが早い、とかなんとか」


 怒っている美和さんの姿を想像したのか、虹磨さんは眉をひそめながらも口元だけ笑っていた。


「内緒に……しますか?」


 私が自分から言わなければ、美和さんには伝わらないはずだ。
 誰にも知られたくない関係を虹磨さんは望んでいるのかもと、そんな考えがよぎったのだけれど……


「別に。隠す必要はない。もちろん事細かにアイツに報告する義務もないけど。なにか聞かれたら、キスされましたと正直に話したらいい」

「い、いいんですか?」

「堤の説教なんかにビビってたまるか」


 ふと、美和さんが仁王立ちで立っていて、虹磨さんが正座をしてこうべを垂れている姿を想像してしまった。
 そんなシーンを目にすることは、この先も絶対にないだろうけれど。


「美和さんは、怒らないと思います」

「……そうか?」


 突然のキスだったけれど、無理やりされたわけではなかった。

 もちろん嫌ではなくて、胸がキュンとして体ごととろけてしまうようなキスだった。
 美和さんにそれを説明すれば、虹磨さんに文句を言ったりしないはずだ。

 私は、いつの間にかこんなにも虹磨さんを好きになってしまっていた。

 それが、今日はっきりと自覚した私の気持ちだ。