「えっと……あの、すみません。こんな小娘がなに言ってるんだ、って感じですよね」

「答えになってない」

「いえ、いいんです。聞かなかったことにしてください。今のはなしで!」


 あわてて両手を無造作にブンブンと振って取り消しを申し出たが、虹磨さんは私の正面に立って顔を覗いてくる。


「なしでいいのか?」


 薄暗闇の中でも、虹磨さんの目力が強すぎて、それが妖艶で……飲み込まれてしまいそうだ。


「俺は、なしにはできない」


 後頭部に手を添えられ、頭ごと引き寄せられたと思った瞬間、虹磨さんの唇が私のそれを塞いだ。


「絢音が言ったのは、こういう意味だろ?」


 鼻先が触れ合ったままの距離で念押しの質問をされたけれど、私は熱に浮かされたようになって返事ができなかった。
 ドキドキが止まらない。心臓が激しく動きすぎて痛いくらいだ。

 再び角度を変えて虹磨さんが唇を重ねた。今度はゆっくりと唇を割って深く侵入してくる。
 彼の持つ絶対的な大人の色香と包容力に、私が(あらが)うのは到底無理だった。

 本格的に体中が熱くなってきたところで、彼の唇がそっと離れていく。