「絢音ちゃんの綺麗な手なら、俺も握りたい!」


 雪哉さんが上手にお世辞を言ってくれたが、私の手はいたって普通だ。爪も短いしネイルもしていない。
 彼がお芝居の世界で接する女優さんのほうが何倍も綺麗だと思う。

 だけど女は褒められるとうれしい生き物だ。ましてその相手が、キラキラと輝くイケメンなら尚更。
 私はなんだか恥ずかしくなってきたので、うつむいて誤魔化した。


「お前ら、はっきり言っとくけど、」


 まだなにか発言しようとしていた雪哉さんと、黙りこんでしまった大和さんのふたりに対して、急に虹磨さんが張りのある声で話しかけた。


「絢音は俺のだから。手を出したらお前らでも許さない」


 虹磨さんがなにを言っているのかさっぱりわからず、私は目を丸くする。
 雪哉さんと大和さんも驚きつつ、ふたりはそのあとニヤリと笑った。

 このイケメンで人気者のふたりが、どこにでもいる一般人の私となにかあるはずがないのに、いったいなんの牽制かわからない。


 一礼して社長室をあとにする。
 よく考えたら、最後のあの発言は私を守ろうとしてくれた虹磨さんのやさしさではないだろうか。
 面白半分にでもちょっかいを出されたら、私が振り回されて傷つくかもしれないから。