わけあってイケメン好きをやめました


「ごめんね。ビックリさせたよね」

「いえ、変な声を出してしまって、こちらこそ申し訳ありません」


 先ほどの失態を詫びたところ、その人物は驚いて当然だとばかりに、爽やかな笑みを向けてくれた。

 しかし、これほどのイケメンは早々お目にかかれない。
 世間でこの人の顔を“国宝級イケメン”と称したりしているが、生で見ると本当に綺麗で、うっとりしてしまいそうになる。


「絢音、あとでもうひとり来るから」

「……あ、はい」


 ボーッとしている場合ではない。お茶を出し終えたのだからさっさと退室しなくては。


「虹磨さんのお気に入りは、この子かぁ」

「おい、余計なこと言うな」


 私を値踏(ねぶみ)するような視線がなんだか意味ありげで、それを阻止(そし)するように虹磨さんが口を挟んだ。
 どういう会話なのかよくわからないけれど、私はすでに扉のほうへ背を向けていたため、そそくさとその場から逃げるように退室した。

 そして、その足ですぐさま美和さんのもとへ駆け寄り、左胸に手を当てて落ち着けとばかりに息を整える。