わけあってイケメン好きをやめました

「今からそこに行って塩大福を買って来てくれ。客が来るから出したいんだ。地図はそこに載ってるから」

「わかりました」

「うちのスタッフの差し入れも兼ねて、多めに買うといい」


 このあと虹磨さんに来客の予定があるらしい。茶菓子は塩大福を所望されたのだろうか。
 私は会釈をして社長室を出ると、美和さんに外出する旨を伝えた。外は寒いけれど、お使いをするのは気分転換になるので嫌ではない。

 それにしても、塩大福が好みだなんて、年配の方が来られるのだろうか。どこかの会社の会長とか?
 買い出しから戻って来て給湯室で来客用の茶器を出しながら、ふとそんな想像をした。

 おいしそうな塩大福なので、私も早く食べてみたい。お客様が帰られたあとの休憩が楽しみだ。


「絢音! 来客だ」


 そうこうしているうちにお客様がいらっしゃったらしい。虹磨さんがこちらに向けて叫ぶ声が聞こえた。
 何名来られたのか確認しようと給湯室から出ると、窓ガラス越しの社長室にひとり分の人影が見える。
 私は温かいお茶と塩大福を乗せたお盆を持ち、ノックをして社長室の扉を開けた。


「失礼します。……え?!」


 咄嗟に出た自分の声を押さえたかったが、あいにく両手がお盆で塞がっている。
 驚きを隠せない様子の私を目にし、お客様はクツクツと面白そうに笑った。

 恥ずかしさから私は顔を赤く染めつつ、そっとお茶と塩大福を出す。