わけあってイケメン好きをやめました

 俺はいつも堤に問答無用で無茶なことを頼んでいる身だ。こういう場合は聞き入れると以前から決めている。


「バイトをひとり雇ってほしいんです。私のサポートとして」

「なんだ、そんな頼みか」

「さっきの子、絢音ちゃんって言うんですけど、あの子がいいんです」


 バイトは欲しいが人件費がかさむのは……と、以前から迷っていたのは堤のほうだ。
 だが、新しくバイトを入れるのなら社長の俺を差し置いて勝手なマネはできないとか考えたのだろう。そのあたりきちんと筋を通すところが堤らしい。


「絢音ちゃん、就職先が見つからない上にカフェのバイトも減るみたいで、他のバイトを探さなきゃって困ってる様子で……」


 しょんぼりと肩を落とす堤を見ていたら、彼女がかわいそうだから、という理由だけでもない気がした。
 きっと、堤はあの子を気に入っていて、手元に置きたいのだ。



「これ、俺の名刺」


 会計を済ませたあとに俺がおもむろに名刺を差し出すと、絢音はキョトンとしていた。


「君、バイトを探してるならうちで働かないか? 今度履歴書を持ってくるといい」


 俺の言葉は伝わったようだが、おろおろとしながら俺と堤に交互に視線を移している。まさに挙動不審だ。
 だがそんなところも、妙にかわいく感じた。