「それと、例の人物と連絡は取れたか?」

「まだです。DMは送ってみましたけど返事はないですね。知り合いにも心当たりがないか聞いています」


 普通にメッセージを送って、それに返事が来るなら苦労しない。
 もしかしたらと期待して、試してみるべきではあるが。


「虹磨さん、そんなにこの子が気になります?」

「透明感のあるいい声だよな」


 ボイストレーニングをすればもっと良くなるだろうし、俺があの曲にアレンジを加えたら、あの子の声に合う曲調に仕上げられる自信はあるけれど……
 と、最近はそんな妄想ばかりを繰り返している。

 俺がプロデュースをしたい。
 未完成な曲を完成品にしたい。
 あの子をもっと、ブラッシュアップしたい。
 
 まるで見知らぬ女に恋をしているみたいだ。


「あ、そうだ、絢音ちゃん、この動画知ってる? すごくバズってるやつ」


 ホットコーヒーを持ってきたさっきの店員の子に、堤がタブレットを見せながら尋ねた。
 噂程度の情報だとしても、なにか知っていればと思ったのだろう。