トイレから出て一緒に話を聞けばいいのだけれど、ユウナにはそんなことできなかった。


自分がイジメられていると知っている子だったとしたら、無視されたり逃げられたりしてしまう。


自分の知らないところで気がついたら嫌われているなんてことも、何度か経験したことがあったのだ。


だからユウナは息を殺してトイレの個室から耳を傾けることしかできない。


「この街にある口中電話の話しなんだけどね、それは真っ赤な公衆電話で山の中にあるんだって」


その電話を見つけた人はお金を入れること無く受話器を上げるの。


そして相手の名前を告げると、その人の過去や本心を聞くことができるんだって。


「それって面白いね! でも山ってどこの山なの?」


「噂の中では県境の山だって聞いたことがあるよ」


「この街で一番大きな山じゃん! そんなの見つけられるわけがないよ!」


「だから噂は噂でとどまってるんだよ」


そう言いながら2人組はトイレから出ていってしまった。


真実の電話……。


ユウナは心の中でさっきの説明を思い出していた。


赤い電話は山の中にある。


その電話に向けて相手の名前を告げると、その人の過去や本心を聴くことができる。