「そこには昔、ヨーロッパから移り住んできた5人家族が暮らしていたんだって。

だけど私達が生まれる前に流行った病気のせいで5人のうち4人が命を落としてしまったの」


ユリはユキコの話にゴクリと唾を飲み込む。


「残されたのはただ1人。5人家族の母親だった。当時その母親は50代前半だったんだけど、立て続けに家族が亡くなってしまって、見た目は70代くらいのおばあちゃんになってしまったんだって。


周りの人たちはそれを見てとても可哀想だと思ったらしいんだけれど、できることはほとんどなかった。母親は誰が訪ねてきても玄関のドアを開けずに家の中に閉じこもるようになってしまっていたから」


ユキコはそこで一旦言葉を切って呼吸を整えた。


目の前には興味津々で自分の話を聞いてくれているユリの姿があって、それだけで満足だった。

さっきみたいに噂話の途中で『私それ知ってる!』とか、話している人よりも噂について詳しい場合なんかは最悪だ。


もう話す気分ではなくなってしまうし、つまらなそうな顔をされてしまうから。


「それで、どうなったの?」


さっきまでとは全然違うユリの反応にユキコは満足して、頷いた。


「結局ね、その母親もしばらくして死んでしまったの。近所の人が訪ねて行っても返事がなくて、それが何週間も続いたものだから不審に感じて無理矢理玄関の鍵を開けて家の中に入ったんだって。そうしたら、母親は大きなリビングの真ん中で首を吊って死んでいて、床には家族全員分の写真が並べられていたんだって」