……なんでそんなに機嫌悪いんだ、椿。

自分だってわたしのこと「デート」に誘ったくせに。というか一緒に行ったくせに。わたしが芹と行くのはだめなのか。



「別にわたしはいいけど……

ひとまず、ノアと話終わらせてからね」



『おー。早く話つけろよー』



『いやいや、なんでだよ……!

はなびも「別にいい」って、何もよくねえから!』



『ごちゃごちゃうるせーなお前は。

じゃあお前も誘えばいいだろ、はなびに「デートして」って』



つい数秒前まで、向こうからは騒ぐ声が聞こえていたのに。

途端に、椿が静かになった。あまりにも静かだから電話が切れたのかと思って、画面を確認してしまったほどだ。



「椿……?」




どうしたの?と。

小さく問えば、『はなび』と、彼がわたしを呼ぶ声。なんだかとても頼りないそれに不安になりながらも、「うん」と返事をする。



『俺ともデート、してくれる?』



「……いいけど、」



ノアが許可を出してくれるかどうかだ。

芹はメシ行こうって言ってる口ぶりからしてご飯に誘ってくれてるだけみたいだけど、椿のデートって本格的だし。



そう思って「ノアに聞かなきゃわからない」と付け足そうとしたけれど。



『じゃあ俺、帰ってきてその約束を実現するの楽しみに、修学旅行行くから』



聞こえた声が嬉しそうだったから、余計なことは言えなかった。

そもそも椿には花火にも誘われてたんだけど、と頭の中で思考を巡らせているうちに、「芹乗るな重い」とじゃれ合うふたりの声。