「ねえ、椿」
月が綺麗だ。
『花舞ゆ』のみんなが空を見れば、同じように月が輝いてる。その事実を想うだけで、たまらなく愛おしい。
離れるなんて、きっと無謀だったのに。
『ん? ……あ、ちょっと待って』
制止する彼の声のあと、カラカラと窓の開く音。
電話の向こうで薄ら聞こえる小さな甘い女の子の声。おそらくすみれちゃんのものであるそれを聞きながら、焦燥感が湧く。
……わたし、いま。
椿に、なにを、言おうとした?
椿が、待ってと言わなかったら。
……なんて、言うつもりだった?
『ごめん、はなび。
ちょっとすみれがぐずってるから、あとでかけ直そうか?もう寝る?』
「あ、うん、そろそろ寝る……
また今度、連絡くれたら、大丈夫だから」
『そっか。じゃあ、おやすみ』
「うん、おやすみなさい」
プツっと、電話を切る。
それから部屋にもどり、ミネラルウォーターを軽く飲んでから、慌ただしくベッドの中へと潜り込んだ。
なにを焦ってるの。
焦って。
「一緒に行くのは花火だけで良いの?」なんて。
……そんな軽はずみで、わたしが言っていいはず、ないのに。



