深い声でそう言われると、なんだか泣きそうになってしまう。

こくんと頷けば、杏子の手は優しくわたしの頭を撫で続ける。視線を持ち上げると、めずらしく微笑を浮かべる彼女の姿。



「利害は一致しているけれど。

……もどらないと意地をはる理由は?」



「それ、は……ノアが、」



「それなら……

もどらないと意地をはるよりも、もどりたいと彼を説得する方が、賢いと思うけれど」



それはそうだ。

本音を言うなら、わたしは彼らの元にもどりたい。──椿にもどりたいと言わせると宣言されたけど、それ以前から、わたしはあの場所にもどりたい。



「でも……

もし、ノアがいいって、言ってくれたとして、」



もどれるように、なったとして。

おこがましくなるんじゃないかって、嫌になる。




2年前。

彼と天秤にかけて『花舞ゆ』を捨てたのに、平然ともどるなんて、おこがましい。



しかもその彼とまだ続いているとなると、

2年の年月は一体なんだったんだと思ってしまう。



……ううん、みんなもきっとそう思う。



「……はなび」



やわらかい声だけで、薄いヴェールに包まれてるみたいに。

穏やかな気持ちにさせてくれる杏子が、すべらせた手で、色鮮やかなわたしの髪を掬う。



「思い込んで自己嫌悪に陥るのは、

あなたを思ってる人にとても失礼よ」



「……杏子」