図星をさされて、思わずへらっと笑みが浮かぶ。

「戸惑ってるだけ」と取り繕う言葉が出たけど、それには当然誰も気づかない。



「そうですよね。俺もはじめびっくりしたんで」



「ん。ほかのヤツら来たら詳しい話聞くわ」



「はい」



じゃあ俺2階上がってるな、とその場を去る。

誰もいないのをいいことに広いソファを陣取って、スマホではなびとのメッセージを開く。



デート後彼女から『今日はありがとう』と送られてきたものに、俺が返事をして、やりとりは終わっていた。

……このまま俺が何も連絡しなければ、向こうから連絡が来ることはない。



悩んだ末に、『染から電話かかってきた?』と、『はなびが帰ってきてんの、バレはじめてる』という簡素なメッセージをふたつだけ送信した。

──あの日。途中まで、俺はこれでも純粋に、デートを楽しんでいた。




我に返ったのは、あの瞬間。

はなびの首筋につけられた、鮮やかなマーキングを見たとき。



はなびが誰のものなのかを、痛いほどに思い出した。

忘れていたわけじゃない。強いて言うならば、俺が、現実逃避のように見ないふりをしていただけだ。……それでも。



どれだけ逃避しようが結局彼女はあの人のものなんだと、実感した。

『わかってたはずなのに』と彼女の前で小さくこぼした声は、本人には聞こえていなかっただろう。……わかってたはずなのに、浸っていたかった。



甘い夢を見れば、その後の現実がどれだけ苦しいものになるのかを、知っていたのに。

それでも嵌まり込んで、結果的にその後見た現実が、重苦しく胸を締め付けただけ。



「自業自得、か」



ぴろん、と。

低い俺の声に似つかわしくない音が鳴って、『誰かだと思ってわざと出なかった』というはなびの返事が届く。



続けざまに、『バレても関わる気ないから』と素っ気のない返事。

関わる気はないって、散々言っといて。……あんな風にデートして笑顔を見せてくれんのは、本当に、ずるい。