「っ、」



そう、だ、忘れてた……!

今日の朝、ノアがそこに、しっかりマーキングして……っ!



「ご、ごめん。気にしないで」



思わず彼の触れた場所を手で隠す。

オフショルダーだけど髪で隠れるからって、完全に油断していた。



「……、……のに」



「……椿?」



何か、言ったみたいだけど。

まわりの喧騒ではっきりとは聞き取れなかった。聞き返すように顔色を伺うけれど、椿はそれ以上なにも言ってくれなくて。




「デート、付き合ってくれたし。

プレゼントするから、気が向いたら使ってよ」



「え、プレゼントって、」



「反論は受け付けません。

お会計してくるから、ちょっと待っててな」



まるでわたしのことを子ども扱いするみたいに、ぽんぽんと頭を撫でてわたしのそばから離れる椿。

すみれちゃんに選んだ髪留めと、わたしに似合うと言ってくれたダッカールを手にお会計へ行ってしまった。



……ほんとうに、女の子の扱いがうまい。



「……なんて言ったん、だろう」



このとき、なぜかわたしは喧騒でかき消された彼の言葉が、すごく気になったのに。

知らなきゃいけないような気がしたのに、結局、この日わたしがその答えを知ることはなかった。